Hさんにとって解雇はもちろんショックではある。が、それ以上に問題なのは、結婚式だ。実は彼が解雇通告を受けた翌週の日曜日が、彼の結婚式だったのである。もちろん、会社の同僚も招待しているし、主賓は解雇通知を気の毒そうに突き出した上司その人なのである。幸せ絶頂のはずの結婚式は、一転修羅場と化す様相を呈してきた。彼が我々のもとに相談に現れたのは、結婚式三日前の、そんな時期である。Hさんが後日語るには、結婚式はかなり壮絶なものだったらしい。
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同僚は大汗をかきながら新郎を無理矢理褒め称え、主賓である上司は、「彼ほどの優秀な人材だったら、我が社などは器が小さすぎる。もっと大きなフィールドで大いに自分を試し」と、あまりにも白々しいスピーチで、逃げるようにその場を離れた。圧巻だったのは、最後の新郎父親のスピーチである。最初は冷静に挨拶をしていた父親も、次第に激した感情を押さえきれなくなり、ついには爆発した。「お前ら、揃いも揃っていい加減なことをいいやがってっ!お前らのむごい仕打ちが、どんなに息子を傷つけたのかわかってんのかっ!」結婚式は来賓の静寂と親族の涙の中、エンディングを迎えた。で、その後どうなったかというと、彼の転職はうまくいった(といっても1ヵ月半ほどかかったが)。新居から新妻が仕事に出かけ、Hさんが就職活動に出るというちょっと不思議な新婚生活になったが、Hさんは、無事なんとか中堅ソフトハウスから内定を獲得することができた。それから一週間後、見知らぬ差出人名で我々宛に手紙が届いた。開封してみると、Hさんの父親からの、丁重なお礼状だった。